コラム
AWSとは?ITコンサルタントが知るべき基礎知識・主要サービス・導入成功のコツ
クラウド活用が当たり前になった現代、ITコンサルタントにとってAWS(Amazon Web Services)の知識は欠かせません。総務省の調査では2023年に国内企業の約8割がクラウドサービスを利用しており、その中でAWSはIaaS/PaaS市場で50%以上のシェアを持つ主要クラウドです。つまりAWSを理解しておくことは、クライアント企業のDX推進やAWS導入支援を担うITコンサルタントにとって極めて重要と言えます。
AWSは幅広いサービスによって、オンプレミスでは難しかった高速なシステム展開や大規模スケーリングを可能にし、従量課金によって初期投資も抑えられるため、クライアントのビジネス課題解決に直結します。結果として、ITコンサルタントが提案できるソリューションの幅も格段に広がるでしょう。 例えば、老朽化した基幹システムを抱える製造業のクライアントに対し、AWSへの移行を提案するとします。AWS上にシステム基盤を再構築すれば、ハードウェア障害リスクを減らし、必要に応じてリソースを柔軟に増減できる環境が得られます。またセンサーから収集した現場データをAWSで分析することで、生産性向上や予防保守などこれまで困難だった施策も実現しやすくなります。このようにAWS活用は単なるインフラ刷新に留まらず、クライアントの業務プロセスやサービスそのものを変革し得るのです。AWSを使いこなせるITコンサルタントは、クラウド前提の時代においてクライアントから信頼される心強いパートナーとなるでしょう。
本記事では、AWSとは何かという基本から、AWSの定義・仕組み、主要サービス、活用例、導入メリット、プロジェクトの種類や進め方、ITコンサルタントにとっての利点、学習方法まで幅広く解説します。クラウド未経験の方でも理解できるよう平易な言葉で述べていますので、ぜひ今後のキャリア形成や提案活動の参考にしてください。
目次
| AWSの定義とクラウドの仕組み
AWSはAmazon社が提供するクラウドコンピューティングサービスの総称です。2006年にサービスを開始して以来、世界中の企業や個人に利用されています。AWSには、仮想サーバー(EC2)やストレージ(S3)、データベース(RDS)、機械学習、IoTなど多種多様なサービスが含まれており、インターネット経由で必要なときに必要なだけITリソースを利用可能です。自社でサーバーやデータセンターを保有せずに済むため、システム構築までのスピードが格段に向上し、利用量に応じた柔軟な運用ができます。 では、クラウドコンピューティングとは何でしょうか?クラウドサービスは提供範囲の違いにより、大きく次の3種類に分類されます。
| IaaS(Infrastructure as a Service)
仮想化されたサーバーやストレージなどのインフラをインターネット経由で提供するサービス形態。利用者はハードウェアを用意せず必要な分だけリソースを利用できます(AWSのEC2などが該当)。
| PaaS(Platform as a Service)
アプリケーション実行環境(OSやミドルウェアを含む)を提供するサービス形態。利用者はサーバー管理を意識せずにアプリ開発・実行に集中できます(AWS Elastic Beanstalkなどが該当)。
| SaaS(Software as a Service)
ソフトウェアの機能をクラウド経由で提供するサービス形態。ユーザーはソフトをインストールせずブラウザ等で必要な機能を利用可能です(Google WorkspaceやSalesforceなどが代表例)。
AWSのサービスの多くはIaaSおよびPaaSに分類されます。仮想サーバーやデータベースなど基盤からアプリ実行環境まで企業システムを支える土台を包括的に提供し、利用者はAWSの世界各地のデータセンター上のリソースにネットワーク経由でアクセスして使った分だけを支払います。このモデルにより、自社で物理サーバーを運用する場合に比べて迅速にシステムを構築でき、負荷に応じて柔軟にスケールすることが可能です。
| 代表的なAWSのサービス紹介
AWSは数百に及ぶサービスを提供していますが、特に基本となる代表的なサービスをいくつか紹介します。
| Amazon EC2(Elastic Compute Cloud)
オンデマンドで仮想サーバー(インスタンス)を提供するサービス。必要な性能のサーバーを自由に立ち上げられ、IaaSを代表する存在です。
| Amazon S3(Simple Storage Service)
容量無制限のオブジェクトストレージサービス。インターネット経由で各種ファイルを安価に保存でき、バックアップやビッグデータ蓄積にも利用されます。
| Amazon RDS(Relational Database Service)
AWSが管理するリレーショナルデータベースサービス。データベースのセットアップやバックアップを自動化でき、MySQLやOracleなど主要エンジンを必要なときにすぐ利用できます。
| AWS Lambda
サーバーレスでコード実行ができるコンピューティングサービス。サーバー管理不要で関数単位のプログラムをデプロイでき、イベント発生時に自動実行され使った時間分だけ課金されます。
| Amazon CloudFront
グローバルに展開されたCDN(Content Delivery Network)サービス。コンテンツを世界中のエッジサーバーからユーザーに配信し、ウェブサイトや動画の表示速度を高速化します。
この他にもコンテナ管理、機械学習、非SQLデータベースなど用途に応じた数多くのサービスが存在します。目的に合わせて組み合わせることで、ほぼあらゆる種類のシステムやアプリケーションをAWS上に構築可能です。
| AWSで実現できること・活用分野
AWSを活用すると、企業のIT基盤から先端技術まで幅広い分野で次のようなことが実現できます。
| システム基盤の構築・刷新
基幹システムや業務アプリのインフラ基盤をAWS上に構築し、オンプレミスより高い可用性や災害耐性を実現できます。
| Webサイトやサービスのホスティング
企業のコーポレートサイトやECサイト、モバイルアプリのバックエンドをAWSで運用できます。Auto Scalingによりアクセス急増にも自動対応でき、安定したサービス提供が可能です。
| ビッグデータの蓄積・分析
IoTデバイスや業務システムから収集した大量データをS3やデータウェアハウスに蓄積し、Amazon RedshiftやAthenaで分析できます。顧客行動の分析や業務データの可視化から、機械学習の訓練までAWS上で一貫して行えます。
機械学習・AIの活用: AWSのSageMaker等を使って機械学習モデルの開発・学習・デプロイが可能です。画像認識や音声合成など高度なAI機能もAPI経由で利用でき、自社アプリに組み込むことができます。
| IoT基盤の構築
AWS IoTサービスにより、工場設備やセンサーなど無数のデバイスからデータ収集・制御が行えます。例えば設備の稼働データをリアルタイム監視し、異常検知や予知保全に活用するといったIoTソリューションを構築できます。
| AWSを利用するメリット
数あるクラウドサービスの中でもAWSを採用するメリットとして、主に次の点が挙げられます。
| 柔軟性(サービス選択肢の豊富さ)
計算・ストレージ・データベースからAI・IoTまで非常に多彩なサービスがあり、ニーズに合わせて最適な構成を組めます。世界中にリージョン(拠点)があるため利用地域も選択でき、ビジネスの変化に応じて構成を柔軟に変更可能です。
初期投資なしで始められ、使った分だけ料金を支払うため無駄なコストを抑えられます。小さく始めて必要に応じて規模を拡大・縮小でき、IT予算を最適化できます。
| セキュリティの充実
通信暗号化やアクセス制御など高度なセキュリティ機能が備わっており、多層的な防御が可能です。主要なコンプライアンス認証も取得済みのため、クラウド上でも安心して機密データを扱えます(ただし安全な設定運用は利用者側の責任となります)。
需要に応じて即座にリソースを拡張・縮小でき、大量アクセス時もサービス継続が可能です。Auto Scalingにより急激なトラフィック増にも自動対応し、ビジネスの成長に合わせてシステム性能をスケールアウトできます。
| AWS導入事例
AWSは様々な業界で活用されています。ここでは金融・小売・製造の導入例を紹介します。
| 金融業界
ある大手銀行ではAWSの機械学習サービスで顧客データを分析し、一人ひとりに最適な金融商品を提案しました。その結果、クロスセルやアップセルの成功率が向上し、顧客満足度の改善につながっています。また、AWSの高度なセキュリティ機能により機密データを保護したままデータ分析を実施できています。
| 小売業界
ある大手小売チェーンではAWS上に各店舗の売上データを集約・リアルタイム分析し、需要予測に基づく適切な在庫補充で欠品を削減し売上が増加しました。さらに購買データの分析とパーソナライズ商品推薦に機械学習サービスを活用し、顧客エンゲージメントが高まりリピート購入率が向上しています。
| 製造業界
ある製造メーカーでは工場設備のセンサーデータをAWS IoTで収集・監視し、機械学習による故障予兆検知でダウンタイムを大幅に削減しました。AWS上に生産データを集約したことで複数拠点のデータを一元分析でき、生産効率の向上とコスト低減に貢献しています。
| AWSプロジェクトの種類
ITコンサルタントが関与するAWS関連プロジェクトには、目的や背景に応じて様々な種類があります。主な例を挙げると以下の通りです。
| インフラ刷新プロジェクト
オンプレミスの老朽化インフラをAWSに移行して柔軟で信頼性の高い基盤に置き換える。
| DX支援プロジェクト
AWSを活用して新たなデジタルサービスやデータ基盤を構築し、クライアント企業のビジネス変革(DX)を支援する。
| 基幹系再構築プロジェクト
基幹業務システムをクラウドネイティブな構成で再構築し、将来に備える大規模プロジェクト。
| PoCプロジェクト
AWS上で新技術やアイデアの実現可能性を検証する小規模な概念実証(Proof of Concept)。
| 既存システム移行プロジェクト
稼働中の既存システムを止めずに段階的にAWSへ移行(リフト&シフトや一部改修を含む)する。
| セキュリティ強化プロジェクト
AWSのセキュリティサービス導入や設定見直しにより、クラウド環境のセキュリティレベルを最適化する。
| AWSプロジェクトの特徴と落とし穴

| AWSプロジェクトの特徴
AWSを利用したプロジェクトには、進め方や難易度においていくつか特有の特徴があります。
| ステークホルダーが多い
ITインフラ担当だけでなく開発・セキュリティ部門や経営層など多くの関係者が関与し、調整に時間がかかりがちです。
要件が不確実になりやすい: 当初は要件が固まっておらず、最新クラウド技術への理解が進むにつれ目標や方針が変わる場合があります。柔軟な対応が求められます。
まずPoCから始まる傾向: いきなり本番導入せず、小さなPoCで効果検証してから本格展開する二段構えのケースが多いです。
| 選択肢が多く構成検討が難しい
AWSにはサービスの選択肢が非常に多く、最適なアーキテクチャを選ぶには幅広い知識と設計力が要求されます。
| AWS案件の落とし穴と成功のコツ
一方で、AWSプロジェクトを進める際に陥りがちな課題(落とし穴)と、その克服のポイントを整理します。
| クラウド費用の見積もり
AWSは利用量によって費用が変動するため、見積もりが難しく想定外のコスト増につながることがあります。対策として事前に料金シミュレーションを行い、定期的にコストを監視することが重要です。自動停止や予約インスタンスの活用などで無駄遣いを防ぎ、コスト最適化を図りましょう。
| スキルギャップ
社内にクラウド知見が不足していると設計ミスや設定漏れのリスクが高まります。必要に応じてAWSに詳しい人材やパートナー企業の支援を得たり、事前にメンバー研修を行うなどしてスキルギャップを埋めましょう。
| サービス過剰構成
AWSのサービスが豊富なあまり盛り込みすぎて構成が複雑になる恐れがあります。まず最小構成で開始し、本当に必要と判明したサービスだけを追加する段階的アプローチが成功の鍵です。
AWSはサービス更新のスピードが速く、常に新知識の習得が必要です。一度にすべて習得しようとせず、計画的に学習時間を確保し、資格取得や社内勉強会を活用して段階的に知識を深めましょう。
オンプレ流のやり方を持ち込むとAWSの利点を活かせない場合があります。AWS Well-Architectedなどクラウド向けベストプラクティスを参考に、Infrastructure as Codeや自動化ツールも活用してクラウドネイティブな設計・運用を取り入れることが重要です。
| ITコンサルタントがAWSを扱うメリット
ITコンサルタント自身にとって、AWSを扱えるようになることは大きなメリットにつながります。
| 提案の幅が広がる
クラウド知識があることで提案内容が格段に増えます。既存業務の効率化だけでなく、AWSのサービスを用いたデータ活用やAI導入、IoTサービス化など新たなDXソリューションを提示でき、コンサルティングの付加価値が高まります。
AWS導入後も運用改善や機能追加など継続的な支援ニーズが生まれやすく、初期導入から運用フェーズまで関与することで長期の顧問契約や追加受注につながりやすくなります。一度の案件が複数フェーズに発展し、安定した収益確保にも寄与します。
| キャリア・市場価値の向上
AWSのスキルは現在のIT市場で非常に需要が高く、社内で重宝されるのはもちろん、将来的に独立しても高単価案件を獲得しやすくなります。AWS認定資格を取得しプロジェクト経験を積んだ人材は市場で引く手あまたであり、自身の市場価値を高める強力な武器となるでしょう。
| AWSを理解するための学習方法・資格
クラウド初心者のITコンサルタントがAWSを学ぶには、座学と実践の両輪で進めることが重要です。まずAWS公式ドキュメントやホワイトペーパーを読み、基本的な概念やサービス内容を把握しましょう。また無料利用枠(Free Tier)を使って小規模な環境を実際に構築し、ハンズオンで感覚を掴むことも有効です。
さらに、体系立てて学ぶ手段としてAWS認定資格の取得がおすすめです。入門としてAWS認定クラウドプラクティショナー (CLF)に挑戦すれば、クラウド全般とAWS基礎を網羅的に学べます。次にAWS認定ソリューションアーキテクト – アソシエイト (SAA)を取得すれば、AWS上でのシステム設計やベストプラクティスへの理解が深まります。資格勉強を通じて学習の指針が得られ、習得度の客観的証明にもなるため一石二鳥です。
そのほかUdemyなどオンライン講座や技術書籍、社内外の勉強会・コミュニティ参加も知見を広げるのに役立ちます。大切なのは書籍や動画で学ぶだけでなく、学んだことを実際に手を動かして確かめることです。継続的な学習を通じてAWS理解を深め、クライアントに自信を持ってクラウド戦略を提案できるITコンサルタントを目指しましょう。
| まとめ:AWSはITコンサルタントにとって避けて通れない存在
クラウド市場をリードするAWSは、ITコンサルタントにとってもはや避けて通れない存在です。本稿ではAWSの定義・仕組みから主要サービス、活用例、プロジェクトの進め方や注意点、さらにはITコンサルタント自身のメリットや学習法まで解説しました。クラウド未経験でも、まず基本を学び小さく実践を重ねることで、AWSの価値を実感できるでしょう。ぜひAWSの知見を武器にクライアントのDXを力強く支援し、同時にご自身のキャリアを飛躍させてください。クラウドの波に乗り、新たなビジネス機会を切り拓くITコンサルタントとして活躍する未来が期待されます。
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