コラム
ITコンサルタント必見!いまさら聞けない、アジャイル開発とは?を改めておさらい
アジャイル開発とは、変化に柔軟に対応しながら価値の高いソフトウェアを素早く届けることを目的とした開発手法です。従来のウォーターフォール開発のように全てを最初に決めてから進めるのではなく、短いサイクルで計画・実装・テストを反復し、段階的にプロダクトを改善していきます。このアプローチにより、プロジェクト途中の仕様変更にも迅速に対応でき、常にユーザーやクライアントの最新ニーズをプロダクトに反映することが可能です。現代のビジネス環境では市場や顧客のニーズが刻一刻と変化します。例えば、競合の出現やユーザーからのフィードバックで当初の計画を修正しなければならなくなることも珍しくありません。ウォーターフォール型のように開発前に全てを固める方法では、こうした変化に対処しづらく、完成した時には市場の要請とズレてしまうリスクがあります。一方でアジャイル開発なら、小さな単位で開発を進めて都度方向修正できるため、常に最新の要求に沿った成果を出し続けることができます。
本コラムを通じて、改めてアジャイル開発とは何かを振り返りましょう。
目次
| アジャイル開発とは?
アジャイルとは「素早い」「機敏な」という意味で、アジャイル開発は開発プロセスを小刻みなサイクルで繰り返すことで迅速なソフトウェア開発を実現する手法です。具体的には、計画・設計・実装・テストといった工程を数週間程度の短いスプリント(イテレーション)ごとに反復し、その都度動くソフトウェア(部分的な完成品)をリリースしていきます。この小刻みな反復によって、段階的にシステム全体を完成させていきます。
背景として、アジャイル開発の概念は2001年に米国で提唱された「アジャイルソフトウェア開発宣言(アジャイルマニフェスト)」に端を発します。この宣言では、個人間の対話や動くソフトウェア、顧客との協調、変化への対応といった価値が従来のプロセス重視よりも重要だと示されました。このマニフェストによって、アジャイル開発では変化に強く人とチームの協働を中心に据えた開発が目指されるようになりました。
| ウォーターフォール開発との違いって?
アジャイル開発を理解するには、対比されることの多いウォーターフォール開発との違いを押さえておきましょう。ウォーターフォール開発は、その名の通り上流工程から下流工程へ「滝が流れるように」一方向に進める手法です。典型的には、要件定義→設計→実装→テスト→運用という工程をこの順序で一度だけ行います。前のフェーズが完了してから次に進むため、一連の開発サイクルは大規模かつ長期になることが特徴です。
| 進め方の違い
ウォーターフォール開発ではプロジェクト開始時に要件や仕様を細部まで確定させ、その計画に沿って開発を進めます。一度計画が固まれば全体像を把握しやすく、予算や人員の見積もり・管理がしやすいという利点があります。ただし実際の開発開始までに時間を要し、途中で新たな要求が出ても工程途中での変更は困難です。一方、アジャイル開発では優先度が高い機能から順に開発・リリースし、都度フィードバックをもとに計画を見直します。小さなサイクルを繰り返すため、開発途中でも要求の追加・変更に対応しやすく、出来上がった部分から順次ユーザーに価値を届けられる点が大きな違いです。
| 変更への対応力
ウォーターフォール開発では途中の仕様変更が難しく、開発途中で新たな要件が出ても対応は困難でコスト増・納期遅延につながりやすいです。これに対しアジャイル開発は、「変化はつきもの」との前提で動くため、スプリントごとに計画を調整しながら仕様変更や機能追加を前向きに取り込めます。市場のトレンド変化や顧客要望にもプロジェクト途中で柔軟に軌道修正できるため、最終的なアウトプットがより現実のニーズに即したものになりやすいのです。
| 適用シーンの違い
一般にウォーターフォール開発は、大規模で要件が明確なプロジェクトや、法規制・安全性重視で途中変更が許されにくいソフトウェアに適しています。最初に綿密な計画を立て、その計画通りに進めること自体が成功の鍵となるケースでは、ウォーターフォールの計画性が威力を発揮します。一方、アジャイル開発はユーザーの嗜好や市場環境が変化しやすいプロジェクトに向いています。長期間かけて全機能を作り込むより、まず必要最低限の機能で素早くリリースし、フィードバックを得ながら改良を重ねていく方が成果を出しやすい分野です。
| 代表的なアジャイル開発手法

| スクラムとXP
アジャイル開発には具体的な進め方として複数のフレームワークや手法が存在します。代表的なものとしてスクラムとエクストリーム・プログラミング(XP)が挙げられます。それぞれ「短いサイクルで開発を反復し、その都度改善していく」という点は共通しており、プロジェクトやチームの特性に合わせて選択されています。ここでは特に広く使われているスクラムとXPについて概要を紹介します。
| スクラム
スクラムは世界で最も普及しているアジャイル開発フレームワークの一つで、小規模なチームが一丸となってプロジェクト目標に向かうことを重視します。開発は1〜4週間程度のスプリントと呼ばれる短期サイクルで進められ、各スプリントの開始時にチームで計画を立て、終了時に動くソフトウェアをリリースして振り返りを行います。スクラムにはプロダクトオーナー(何を作るかを決定する役)、開発チーム(設計・実装・テストを行う技術者グループ)、スクラムマスター(プロセスの円滑化や障害除去を担う役)の3つの役割が定義されており、各自が協力し合って進捗を管理します。
スクラムのポイントは、チームの自律性と対話によって効率的かつ柔軟に開発を進められることです。短いサイクルで成果物を示し合いフィードバックを取り込むことで、認識のズレを早期に修正できます。ただしスクラムを機能させるには、チーム内の密なコミュニケーションと信頼関係が不可欠です。スクラムマスターの下で障害を素早く取り除き、関係者全員が日々協調しながら進めることで、初めてその効果が最大限発揮されます。
| エクストリーム・プログラミング(XP)
XPは、アジャイル手法の中でもソフトウェア開発技術の実践に焦点を当てた手法です。ケント・ベックらによって提唱され、良いプラクティスを極限まで徹底することからこの名が付けられました。XPではテスト駆動開発(TDD)、ペアプログラミング、継続的インテグレーション(CI)などの高度な技術プラクティスを取り入れ、常に高い品質を保ちながら頻繁なリリースを可能にします。XPは技術面の習熟が要求されますが、そのプラクティスはスクラムなど他の手法にも応用されています。現在ではスクラムの管理手法とXP由来のエンジニアリング手法を組み合わせて実践するケースも多く、両者は補完関係にあると言えるでしょう。
| アジャイル開発のメリットとデメリット
アジャイル開発は近年主流となりつつある手法ですが、現場で活用するにはメリットとデメリットの双方を正しく理解しておく必要があります。ここでは実務的観点から主な利点と注意点を整理します。
| アジャイル開発のメリット
| 変化への柔軟な対応
仕様変更や要件追加への対応力が高く、開発途中でも方向転換がしやすいです。市場動向やユーザー要望の変化に追随できるため、完成時に「ニーズとズレた成果物しか残らない」という事態を避けやすくなります。
| 早期かつ継続的な価値提供
機能単位で小さく開発・リリースを重ねるため、プロジェクト開始から初期リリースまでのリードタイムが短くなります。少しずつリリースしてフィードバックを得ることで、不具合の発見も早まり、修正コストを低減しながら段階的に製品価値を高めていけます。
| 顧客ニーズの確実な反映
開発過程で顧客やユーザーからのフィードバックを継続的に取り入れるため、要求の齟齬や作り手の独りよがりを防ぎやすいです。納品時に「想定と違う」といったミスマッチが起こりにくく、クライアント満足度の高い成果物につながります。
| アジャイル開発のデメリット
| 全体スケジュールの見通しづらさ
詳細計画を最初に確定しない分、プロジェクト全体の完了時期や最終的な成果物の範囲を把握しにくい傾向があります。特に経験の浅いチームでは、「気付いたら納期直前まで重要機能が残っていた」という事態も起こりえます。全体を統括するプロジェクトマネジメント力と、適度に将来像を描くロードマップの提示が欠かせません。
| 仕様ブレやスコープ膨張のリスク
柔軟に変更を受け入れられる反面、プロジェクトの方向性が定まらずブレやすい危険もあります。顧客の追加要望に応え続けるうちに当初の目的から逸れてしまったり、要求が次々と増えてスコープが拡大してしまう恐れがあります。これを放置するとプロジェクト長期化や予算超過を招きかねないため、プロダクトオーナーによる要求の取捨選択と優先度管理が重要です。
| 高度なチームスキルの要求
綿密な設計書や手順書に頼らないぶん、チームメンバーの力量や自主性がプロジェクト成否を左右します。不確実な状況下で最適解を模索できるエンジニアの技量や、頻繁な調整ごとを仕切るマネジメント力が求められます。これらをこなせる体制が整っていないままアジャイルに移行すると、かえって現場が混乱する可能性があります。
| 導入時の課題と成功のポイント
アジャイル開発は、理論上は魅力的でも、実際に組織へ導入する際には様々な壁に突き当たります。特に日本企業では文化や慣習の違いから、海外に比べて普及が進みにくいとも言われます。実際、日本ではアジャイル開発の普及がまだ十分ではないのが現状です。ここでは、日本企業がアジャイルを導入・定着させる際に直面しがちな課題と、それを乗り越えるためのポイントを考えてみましょう。
| 導入時に直面しがちな課題
| 計画重視の企業文化と縦割り組織
多くの日本企業は綿密な事前計画とそれに基づく合意形成を重視します。さらに部署ごとの役割分担が明確な縦割り組織では、他部門を巻き込んだ迅速な意思決定が難しい傾向があります。このため「走りながら調整する」アジャイルの進め方は社内の決裁プロセスになじみません。
| 経営層の理解・支援不足
アジャイルへの移行には現場レベルの工夫だけでなく、経営トップの理解と後押しが不可欠です。しかし「現場の開発手法の問題」と捉えられて経営層が関与しないケースも散見されます。トップダウンの支援がないと、従来の評価制度や予算管理ルールに縛られて現場が動きづらく、アジャイル導入が組織全体として機能しません。
| アジャイル人材・スキルの不足
経験豊富なスクラムマスターやアジャイルコーチ、適切にプロダクトオーナー役を担える人材など、アジャイルをリードできる人材が社内に不足していることも課題です。また開発者側もテスト自動化やCI/CDなどアジャイルを支える技術スキルが不十分だと、せっかく手法を変えても効果を発揮できません。
| アジャイル導入を成功させるためのポイント
| 経営層の巻き込みとビジョン共有
アジャイル導入の第一歩はトップマネジメントの理解と支援を得ることです。アジャイルがもたらすビジネス上のメリット(例: 開発リードタイム短縮による市場競争力強化、顧客満足度向上など)を経営陣に明確に示し、経営トップ自らが旗振り役となって推進する姿勢を示してもらいましょう。トップダウンの後押しがあれば、組織全体で従来のやり方を見直す機運が高まりやすくなります。また、経営層に対して、アジャイル開発においては予算や開発計画に変更がつきものだということを理解いただくことも非常に重要となります。
| 小規模プロジェクトからのスモールスタート
いきなり全社規模で導入するのではなく、まずは小さなプロジェクトで試行して成功体験を積むことが重要です。例えば一部チームでスクラムを導入してみて、その成果や課題を社内で共有します。小さく始めて得たノウハウをもとに徐々に適用範囲を広げれば、リスクを抑えつつ社内の理解と協力を得ていくことができます。
| 専門コーチや研修による人材育成
社内に経験者がいなければ、外部からアジャイルコーチとなる専門家を招いたり、社員を研修に参加させたりして人材育成を図りましょう。経験豊富なコーチがプロジェクトに伴走すれば、現場で正しいプラクティスを根付かせる手助けになります。また必要に応じてスクラムマスターの資格取得やOJTを通じて、自社内にアジャイルを回せる人材層を育てていくことも大切です。
| 現行プロセス・体制の見直し
従来の開発プロセスや組織体制も必要に応じてアップデートしましょう。例えば承認フローを簡素化する、部署横断チームを編成して意思決定を迅速化する、契約形態を見直す等、アジャイルに適合させる工夫が求められます。一度に全てを変えるのは難しいため、段階的に社内プロセスを改善していくことが現実的です。
| ITコンサルタントの関わり方
アジャイル導入には第三者の専門知識が大きな助けになります。その役割を担うのがITコンサルタントです。フリーランスでもそうした導入支援に関わる場面が増えています。以下にコンサルタントが関われる主な形を紹介します。
| 導入計画の策定支援
企業が初めてアジャイル開発を取り入れる際、コンサルタントは現状の開発プロセスや組織課題を分析し、適切な導入戦略を提案します。パイロットプロジェクトの選定やツール環境・研修の整備など、導入初期の段取りをリードし、移行をスムーズに進める役割を果たします。
| アジャイルコーチとしての伴走
アジャイル導入後、現場に寄り添ってチームを育成・支援するのもコンサルタントの重要な役割です。アジャイルコーチとしてスクラムのイベント(計画策定、デイリーミーティング、レビュー、振り返り)のファシリテーションを行ったり、チームがアジャイルの原則に則って自己組織化できるよう助言・調整を行います。必要に応じてステークホルダーへの働きかけも行い、組織全体で協力できる環境づくりを支援します。客観的な視点から適切な指摘や改善提案を行うことで、チームが壁にぶつかった際の打開策を示すこともできます。
| プロセス改善とベストプラクティスの提案
プロジェクトの状況を定期的に評価し、さらなる効率化や品質向上のための改善策を示すのもコンサルタントの役割です。バーンダウンチャートなどの指標からボトルネックを分析し、タスク管理やリソース配分の見直しを提案したり、テスト自動化やDevOps導入などベストプラクティスの適用を支援します。また、必要に応じてウォーターフォール的手法との組み合わせ(ハイブリッド運用)を提案するなど柔軟なプロセス設計にも助言できます。自身が様々な企業で培った知見を共有し、他社の事例から学ぶ機会を提供することでチームの成長を後押しすることもできます。
| まとめ
このようにITコンサルタントは、導入計画の立案から現場でのコーチング、継続的なプロセス改善まで、幅広い場面でアジャイル開発に関与できます。フリーランスであれば自らの経験や専門性を武器に、クライアント企業の変革を後押しする存在になれるでしょう。大切なのは単なる理論の紹介に終わらせず、現場で「成果が出るアジャイル」の実現をともに目指すことです。その姿勢が信頼を生み、企業にとってもアジャイル導入の心強いパートナーとなるはずです。
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