コラム
BPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)とは?ITコンサル視点の進め方・事例と成功のポイントを徹底解説!
BPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)は、企業が劇的な業績向上を目指す際に不可欠なアプローチです。なぜなら、グローバル競争やデジタル化の進展によって、既存プロセスの延長線上の小手先改善では立ち行かない局面が増えているからです。例えば、あるメーカーはBPRによってリードタイムを半減し、コストを大幅削減することに成功しました。本稿では、ITコンサルタントの視点からBPRの概要、進め方、事例、そして成功・失敗の要因を解説します。
目次
| BPRとは何か?業務改善との違いと重要性
BPR(Business Process Reengineering)とは、企業内の業務プロセスをゼロベースで見直し、抜本的に再設計する取り組みです。単なる部分的な業務改善(現行プロセスの微調整)とは異なり、現状の前提を白紙に戻して理想の業務フローを再構築する点に特徴があります。1990年代にマイケル・ハマーらによって提唱され、日本でも「リエンジニアリング」として一時注目されました。近年、デジタルトランスフォーメーション(DX)の流れや労働力不足への対応策として、BPRが再評価されています。
従来の業務改善では、既存プロセスの範囲内で効率化を図ります。例えば手作業を一部システム化したり、担当部署間の調整で無駄を省くといった「漸進的な改善」です。それに対しBPRは「破壊的な改革」とも言えます。業務の流れ自体を抜本的に作り直し、組織構造やITシステムも含めて最適化することで、コスト、品質、スピード、サービス水準などに劇的な向上をもたらすことを狙います。BPRの重要性は、変化の激しい市場環境で競争優位を維持する手段として有効である点です。緩やかな改善では追いつかない大きな課題(例えば大幅なコスト削減やサービス迅速化)がある場合、BPRによる抜本策が必要になります。
| ITコンサルタントの視点:BPRで何をどう変えるべきか
ITコンサルタントの視点から見ると、BPRは単なる業務効率化プロジェクトではなく、経営戦略を実現するための業務改革です。現場のプロセス変更に留まらず、組織体制や企業文化の変革、さらにIT基盤の刷新まで含めた包括的な取り組みとなります。ITコンサルタントは、クライアント企業の現状課題を経営レベルから分析し、「あるべき姿(To-Be)」を描いた上で逆算してプロセスとシステムをデザインする役割を担います。
例えば外部のITコンサルタントがBPR支援に入る際、まず経営層へのヒアリングやデータ分析を通じて現状(As-Is)の業務フローを可視化します。その上で、市場環境や顧客ニーズを踏まえて目指すべきビジネスモデルや業務像を定義します。ここでは従来の延長線ではなく、大胆な発想で「この業務は本当に必要か」「最新のテクノロジーで全く別の進め方ができないか」とゼロベース思考で検討します。ITコンサルタントは最新のデジタル技術や業界ベストプラクティスの知見を活かし、クライアントと共に革新的かつ実現可能なプロセス案を立案します。さらに、BPRは複数部門にまたがる改革のため、ITコンサルタントが客観的立場で部門間の利害を調整し、全社視点でプロジェクトを推進することも求められます。利害調整やチェンジマネジメントなど、人と組織の側面への配慮もBPRにおけるコンサルタントの重要な役割です。
| BPRの進め方(基本ステップ)
大規模な業務改革であるBPRを成功させるには、体系だったステップに沿ってプロジェクトを進めることが重要です。以下は一般的なBPR推進の5つの基本ステップです。
1. 現状分析と目標設定
まず現行業務の実態を把握し、改革の目標を明確に定めます。現状分析では各部署の業務フローを洗い出し、処理時間やコスト、人員などを定量的に可視化します。これによりボトルネックや無駄な工程が浮き彫りになります。同時に、経営戦略に沿った目標設定を行います。例えば「顧客対応リードタイムを現状の半分に短縮する」「処理コストを30%削減する」など具体的な数値目標を掲げます。この時、目標達成のタイムライン(期間)も設定しておくことで、後の進捗管理が容易になります。
2. 課題の抽出
次に、現状分析で洗い出した情報を基に課題を抽出します。目標とのギャップを生む原因を探り、「なぜ今のプロセスでは目標を達成できないのか」を突き止めます。典型的な課題として、重複作業(複数部署で同じ入力作業をしている等)、非効率な承認ルート(不要な稟議ステップが多い等)、属人化(特定担当者に業務知識が偏在)やシステムの断絶(部署ごとに別々のシステムを使いデータ連携できていない)などがよく見られます。これらの課題は、BPRで優先的に解決すべき対象となります。また現場担当者へのヒアリングを通じて、現行プロセスの痛点や改善アイデアを吸い上げることも重要です。現場の声を反映しない改革は、後々の定着フェーズで抵抗に遭いやすくなるため注意が必要です。
3. 新業務プロセスの設計
抽出した課題を踏まえて、理想とする新しい業務プロセス(To-Be案)を設計します。ここでは現行の延長ではない大胆なプロセス変更も検討します。具体的には、プロセスの簡素化・並行化(不要な工程の削減や同時処理化)、権限委譲(承認レベルを適切に減らす)、ITツールの統合・導入(最新のシステムで一元管理する)等、様々な改革案を組み合わせます。設計時には優先順位付けも重要です。効果が大きい改革(ROIの高い施策)から順に実行できるよう、どの部分を重点的に変えるかメリハリをつけます。またシステム面では、現行で点在しているツールを統合したり、新たにERP(統合基幹システム)やワークフローシステムを導入することも検討します。クラウドサービスやRPA(Robotic Process Automation)の活用により自動化できる作業はないか、テクノロジー視点で再点検することも有効です。
4. プロセス変更の実行と定着
設計した新プロセス案がまとまったら、段階的に実行に移します。すべてを一度に切り替えるのではなく、リスク低減のためパイロットテスト(一部部署や限定範囲での試行)から始めるケースもあります。実行段階では、現場への周知徹底と教育が欠かせません。マニュアル整備や研修を通じて、新しいやり方への理解を深めてもらいます。また業務システムを刷新する場合は、並行期間を設けて徐々に移行するなど、現場に混乱を生じさせない工夫も必要です。チェンジマネジメントとして、従業員からのフィードバック窓口を設けるなど、現場の声を反映しながら改革を進めます。BPRはトップダウンで進めがちですが、現場の協力なくして成功はないため、経営層と現場が一体となった推進体制を築くことがポイントです。
5. 効果測定と継続的改善
新プロセスを導入したら、効果測定を行い目標達成度を評価します。設定したKPI(重要業績指標)に対し、実際の数値改善がどの程度達成できたかを定量的に確認します。例えば「リードタイム半減」の目標に対して実際に何日短縮できたか、コスト削減額はいくらか、といった具体的成果を測定します。また現場からの声(使い勝手や残る問題点)も収集し、必要に応じてプロセスを修正・改善します。BPRは一度で完了ではなく、PDCAサイクルで継続的に業務を磨き上げる姿勢が大切です。最初の改革で期待した効果が出なかった部分については、原因を分析して対策を講じ、さらなる改善に繋げます。こうしたフォローアップにより、BPRの成果を企業文化として定着させることができるでしょう。
| ITコンサルタントによるBPR支援の具体例と役割
BPRプロジェクトでは、ITコンサルタントが専門知識を活かして様々な支援を行います。ここでは、ITコンサルタントが実際に担う主な役割とその具体例を紹介します。
| 現状分析と課題特定支援
コンサルタントは第三者の視点で業務フローを精査し、ボトルネックを洗い出します。例えば製造業クライアントの案件では、工場から営業までの受注-to-出荷プロセスをヒアリングとデータ分析で可視化し、在庫管理に二重入力が発生している問題などを発見しました。このようにデータに基づく客観分析によって、社内では気付きにくい非効率を指摘します。
| 改革案の立案とITソリューション提案
抽出した課題に対し、業務設計とITの両面から解決策を提案します。例えば上記のケースでは、二重入力を無くすために基幹システムを統合し、受発注から在庫管理まで一貫して処理できるERPシステム導入を提案しました。このように業務とITを融合させた改革プランを示せる点が、ITコンサルタントの強みです。
| プロジェクト管理(PMO)と推進
BPRは部署横断の大規模プロジェクトとなるため、専門のPMO(Project Management Office)機能が必要です。ITコンサルタントはPMOリーダーとしてプロジェクト計画を策定し、進捗管理やリスク対策を行います。PMO支援の役割としては、各タスクのスケジュール調整、経営層への定期報告、変更要求の管理、そして現場担当者との密なコミュニケーションなどが挙げられます。外部コンサルタントが入ることで社内調整が円滑になり、改革推進のスピードが上がるというメリットがあります。
| チェンジマネジメントと定着化支援
新プロセスやシステムの定着には、従業員の意識改革とトレーニングが欠かせません。ITコンサルタントはチェンジマネジメントの専門家として、現場からの不安や抵抗を吸い上げ対処し、必要な研修コンテンツを用意するなど、人の側面からもBPRを支援します。例えば新システム導入時には、マニュアル整備や研修の実施、問い合わせ窓口の設置などを提案し、新しい業務へのスムーズな移行を後押しします。
| PMO支援の具体的なメリット
上記のようにBPRでのPMOはプロジェクト成功の中核となる存在です。PMO支援には次のようなメリットがあります。
| 統合的なプロジェクト管理
専任のPMOがいることで、複数部門にまたがるタスクやスケジュールを一元管理できます。これにより遅延や抜け漏れを防ぎ、プロジェクト全体を統制することが可能です。
| 意思決定の迅速化
PMOがハブとなり経営層と現場を繋ぐため、重要事項のエスカレーションや意思決定がスムーズになります。ボトルネックに早期対処し、プロジェクトの停滞を防げます。
| 品質とリスクの管理
専門知識を持つPMOチームが進捗をモニタリングし、リスク兆候を事前に察知して対策を講じます。これにより、BPR施策の品質を担保しながら確実に推進できます。
このように、ITコンサルタントによるPMO支援はBPRプロジェクトの潤滑油となり、改革を確実に前に進める原動力となります。
| BPRの代表的な事例
ここで、BPRによって大きな成果を収めた代表的な事例を業界別に紹介します。
| 製造業のBPR事例:自動車メーカーF社の生産プロセス改革
大手自動車メーカーのF社では、部品調達から支払いまでのプロセスを全面的に見直しました。それまで購買・経理部門では、複数の伝票を突き合わせる煩雑な処理に多くの人員を割いていました。このプロセスをBPRにより再設計し、オンラインシステムによる一元管理を導入しました。具体的には、購買担当者が発注データをシステムに入力し、納品時に検収担当者が受領データを登録すると、自動的に支払い処理が行われる仕組みに変えたのです。その結果、関連部門で約500人を要していた処理が125人で回るようになり、人件費と処理時間の大幅削減を実現しました。
| 金融業のBPR事例:IBMクレジットの審査業務短縮
IBMのグループ会社であるIBMクレジット社は、かつて顧客への融資申し込みに対する審査プロセスに平均6日を要していました。営業担当が申請すると、複数部署を経由して与信審査や契約書作成が順次行われるため時間がかかっていたのです。このプロセスを抜本的に見直すため、ワンストップ審査システムを導入しました。具体的には、分散していた審査担当者を1人のジェネラリストに統合し、ITシステム上で一括処理できるようにしたのです。その結果、審査時間は6日から約4時間へと劇的に短縮されました。審査スピードの向上により顧客離れを防ぎ、ビジネス機会の損失を減らすことに成功しました。この例は、金融業においてもBPRとIT活用によってサービス提供スピードを飛躍的に高められることを示しています。
| BPR成功のポイントと失敗要因
| 成功のポイント
| トップマネジメントのコミットメント
経営層が主導し強い意志を示すことが不可欠です。全社的な改革にはトップの支援と意思決定が伴わないと、現場も安心して動けません。経営層自らが旗振り役となり、明確なビジョンを示しましょう。
| 明確な目標設定と指標管理
BPRの目的やゴールが曖昧だと、改革の方向性がぶれてしまいます。「何をもって成功とするか」を定量的に定義し、その指標をモニタリングする体制を敷くことが重要です。
| 全社的な巻き込みとコミュニケーション
部署横断のプロジェクトでは、各部門の協力が欠かせません。初期段階から関係者を巻き込み、改革の意義を丁寧に説明して疑問や不安に答えるなど、双方向のコミュニケーションを図りましょう。現場のキーパーソンを取り込み、協力体制を築くことも重要です。
| 外部知見の活用
自社だけでは発想が現状の延長になりがちです。BPRの豊富な経験を持つコンサルタントや、他社の成功事例、業界のベストプラクティスを参考にすることで、より効果的な施策を導入できます。
| 段階的な実行と改善の継続
BPRは一度で完璧を目指すよりも、段階的に変革を進める方が現実的です。小さな成功体験を積み上げつつ、都度フィードバックを取り入れて軌道修正することで、大きな改革もうまくいきます。計画通りにいかない場合でも柔軟に戦略を見直す姿勢が大切です。
| 失敗につながる要因
| 経営の関与不足
トップがBPRを「現場任せ」にしてしまうケースです。経営陣が関与しないと予算や人員の十分な投入がされず、優先度が下がってプロジェクトは失速します。また、現場も本気度を疑い本腰を入れなくなります。
| スコープの過大設定と非現実的な期待
期間やリソースに比して改革範囲を広げすぎたり、短期間で成果を急ぎすぎる期待を持つと失敗しやすいです。計画倒れを防ぐため、スコープは絞り、現実的なロードマップを描きましょう。
| 現場の抵抗とチェンジマネジメント不足
変革による業務負担増や役割変更への不安から、現場が抵抗することがあります。これを軽視して強引に進めると、現場の士気低下や反発を招きかねません。丁寧な説明やサポートなしに「やれ」と命じるだけでは定着しません。
| IT導入=BPRだと誤解すること
単に新しいITシステムを導入すればBPRになるわけではありません。既存の非効率な手順をそのままシステム化しても、効果は限定的です。プロセス自体を見直さずにツール導入だけして終わると、期待した効果は得られません。
| プロジェクト管理の甘さ
大掛かりな改革に相応の管理体制が整っていないと、途中で進行が迷走します。進捗遅延や予算超過が起きると現場から不信感が生まれ、最悪の場合、プロジェクト中止に至ります。専任のPMOを置き、緻密な管理とフォローを怠らないことが必要です。
| おわりに:BPRで企業変革を実現するために
BPRはリスクも大きい挑戦ですが、成功すれば企業に大きな飛躍をもたらします。ITコンサルタントの視点から見ても、プロセス改革とデジタル技術の融合は今後の企業競争力を左右する重要テーマです。重要なのは、単発のプロジェクトで終わらせず、改革の文化を組織に根付かせることです。トップの覚悟と現場の情熱、そして適切な専門家の支援を得て、ぜひBPRによる真の業務変革に挑戦してみてください。
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